リオンについて
年齢別の平均聴力を利用した「聞こえチェッカー」で聞こえ年齢を判定
2022.06.09
あなたの聴力は年齢相応?
難聴自覚者の補聴器普及率は14.4%にとどまったままだ。こうした状況を改善するため、いち早く難聴に気づくためのツール「聞こえチェッカー」の開発にリオンは取り組んでいる。
年齢による聴力平均値のパターン*
“聴力の衰えに気づいてもらいたい”
人口における高齢化率の上昇に伴い、日本では難聴者が増えている。ところが難聴を自覚していながら、実際に耳鼻咽喉科に足を運ぶ人は10人中4人にとどま
る。その結果、補聴器の装用率も主要先進国の中では日本が飛び抜けて低い。「そもそも難聴の自覚すらなく、聴力低下に陥っている人が多数いると思われます。こうした難聴予備軍というべき人たちに、聴力の衰えに気づいてもらいたい。この願いがスタートでした」と、中市健志は「聞こえチェッカー」の開発コンセプトから語り始めた。
聞こえが気になった際には、まず耳鼻咽喉科での診察が推奨されている。しかし、難聴の自覚のない人が、耳鼻咽喉科に診察を受けに行くはずもない。厚生労働省が策定した新オレンジプランの中で、難聴が認知症の危険因子のひとつとして挙げられており、超高齢社会に突入した日本では、もはや一刻の猶予も許されない。
「どうすれば難聴の兆しに気づいてもらえるのか。そう考えたときに浮かんだのが、スポーツセンターなどに設置してある血圧計でした。あれと同じように、一人で気軽に聴力をチェックできる機器があれば、少しは状況が変わるはずです」と、佐藤香織は語る。
簡単・気軽、一人でできる聴力測定
できれば遊び感覚で聴力をチェックしてもらえれば理想的だ。そのためには、どのような仕組みが望ましいか。
耳鼻咽喉科で行う聴力検査では、音を少しずつ大きくしながら、音が聞こえたらボタンを押す。この作業を繰り返し、聞こえる音の中で最も小さなレベルが聴力閾値となる。
「聴力検査と同じプロセスを、簡単に楽しみながら、それこそゲーム感覚で試してもらいたい。実際に様々な操作画面を試しながら、聴力のチェックとしてとっつきやすい形に仕上げていきました」と、佐藤は説明する。
高齢者に「ちょっと試してみようか」と思ってもらうには、可能な限り使いやすくする必要がある。文字を大きく表示して操作は単純に、やってみてなんとなく楽しい、そんなイメージも重視された。検討を重ねた結果、音が聞こえれば「はい」、聞こえなければ「いいえ」ボタンを
押して聴力をチェックし、現在の聞こえ年齢をプリンタで出力するシステムが完成した。
聞こえチェッカー
周囲の騒音にいかに対処するか
プリントアウトされるレポートには、現時点での「聞こえ年齢」が記される。聞こえ年齢は、性別・年齢別の聴力平均値に基づいて判定される。その裏付けとなるのは、日本で初めて約1万人の健聴者を対象に行われた、国立病院機構東京医療センター聴覚障害研究室の和佐野浩一郎室長による大規模な聴力検査研究*の成果だ。「聞こえチェッカー」の実用化は、この研究成果を利用して東京医療センターとリオンの共同研究で進められた。
「最後まで検討課題として残ったのが、チェックする環境です。耳鼻咽喉科での聴力検査は、専用の静かな環境で行われます。これに対して『聞こえチェッカー』は、その設置場所をできるだけ限定したくない。騒音問題は、通常より遮音効果の高いヘッドホンの着用によりクリアしま
した」と、中市は説明する。
現在は実証段階にあり設置場所も限定的だが、今後の設置場所として想定されているのは、スポーツセンターなどに
加えて、耳鼻咽喉科の待合室も有力な候補だ。たとえばアレルギー性鼻炎などで来院した人が「私の耳は大丈夫かな?」と聞こえをチェックする。その結果を見て、ついでに先生に相談する。
「そんな流れの中で、一人でも多くの人に病院で診断を受けてほしい。自分の状態が年相応なのか、平均から外れていないかを気にする傾向が、日本人には強くあります。チェックの結果、同世代の人より聞こえていないとなれば、受診する人が
増えるはずです」と、佐藤は期待を語る。
とにかく聴力が悪化する前に
聴力の悪化は、社会的なつながりにも悪影響を与える。しかし早い段階から補聴器を使うなど適切な処置をすれば、普通の暮らしを維持できる。そのために
は、可能な限り早い段階で耳鼻咽喉科で診察を受けること。難聴も初期段階なら対処可能なケースもある。
補聴器普及の障壁として、よく指摘されるのが、その価格だ。「けれども本質的な理由は、価格に対して得られる価値についての理解が深まっていない点にあります」と中市は強調する。難聴の進行は認知症はもとより、他の病気にもつながりかねない。そして、いったん身体が不自由になってしまってからでは、補聴器を使ってもらうのは難しくなる。
加齢に伴い聴力が衰えるのは、仕方のないこと。だからといって、そこで諦めてしまうと、他に様々な悪影響が及びかねない。
「現状では14%にとどまる補聴器の普及率を、最低でも20%には持っていきたい。海外ではすでに5 割を超えているところもあります。日本も何とかそこまで普及させたいのです」と、佐藤は思いを語った。
取材・文/竹林 篤実
- 本記事は「RION Technical Journal Vol.3」から抜粋しています。
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