リオンについて
アナログからデジタルへの大転換期にフォーカス
2022.08.25
デジタル補聴器を世界で初めて発売
リオンが日本初となる量産型の補聴器を世に送り出したのは1948年。それ以来、リオンは日本の補聴器の歴史とともに歩み、さまざまな製品を開発してきた。その中で技術的に一つの大きな転機となったのが、1980年代終わりごろから進められた補聴器のデジタル化だ。
当時、世の中のさまざまなものがアナログからデジタルへと移行する中、アメリカの大学でデジタル補聴器のプロトタイプが製作されるなど補聴器にもデジタル化の波が押し寄せつつあった。そのような状況の中、リオンではポケット型デジタル補聴器「HD-10」を世界で初めて発売する。1991年9月のことだ。
「アナログではできない音処理をしないとデジタルにする意味がないと考えていた」─ リオンの舘野誠はそう回想する。当時、アナログ補聴器はポケット型よりも耳かけ型の方が多く販売されていた。しかし小さくなるほど電圧や電力の面で設計や製作が難しくなる。「デジタルならではの機能を備えた補聴器を実現できるのであれば、たとえ耳かけ型ではなくても出す意味がある」と舘野たちは考えた。
もちろん世界初の試みがすんなりと運ぶはずがない。HD-10 の開発は試行錯誤の末に実現したものだ。
デジタル補聴器では、マイクロホンに入力された音はAD(アナログ・デジタル)変換器でデジタル信号に変換され、その信号をDSPで処理したのちに再びアナログ変換して音として出力する。HD-10 の開発にあたっては、IC(集積回路)やDSP、AD変換器の調達が大変だった
と舘野は言う。「予算の関係もあり本格的なICを開発することはできません。そこで『スタンダードセル』というイージーオーダー的なICのうち、補聴器に使えそうで予算内に収まるものを探しました」
とくに苦労したのがAD変換器の選定だったと舘野は続ける。補聴器の場合、音の大きさや音源の距離などさまざまな状況にうまく対応する必要がある。さまざまなAD変換器での試行錯誤が繰り返された。
最終的にHD-10 で採用したスタンダードセルには、内部にAD変換器の回路も入っており、それが補聴器にも使える性能を持っていた。そのICが見つかったことが非常に大きかったと舘野は振り返る。
耳かけ型・耳あな型のデジタル補聴器へ
HD-10の発売後、舘野たちは耳かけ型のデジタル補聴器を開発したいという考えを抱いていた。ただ、ポケット型より小さな耳かけ型では回路の小型化が必要となり、また電池が小さくなることから使用できる電力も少なくなる。耳かけ型の実現には専用のDSPが不可欠だった。しかし「当時の日本の半導体メーカーは量産性の高いものが中心で、補聴器向けの少量生産でのIC開発は難しかった」と舘野は語る。
そのような状況の中、補聴器専用のDSPを米国ベンチャー企業から供給を受けられることになった。それを受けて耳かけ型・耳あな型のデジタル補聴器の開発を進め、1999年に「HB-D1」「HI-D1/HI-D2」が発売された。HD-10から8年を経て実現した耳かけ型・耳あな型のデジタル化だったが、まだ進化の余地は残されていた。当時の補聴器向けのDSPは、自分たちで自由にプログラミングできるわけではなかった。組み込み済みの複数の音処理のプログラムを必要に応じて選んで使うことしかできず、細かい調整はできなかったのだ。
「自分たちの思い通りにプログラミングしたい」─それが実現したのが、2009年に発売されたリオネットロゼシリーズだった。補聴器に搭載できるほど小型かつ省電力で、プログラミングの自由度が高いDSP が入手可能となったことで実現したものだ。「プログラミングの自由度が上がり、製品を改良しやすくなりました。お客様の要望に応えて満足度の高い補聴器を作りやすくなったのです」
リオンではその後、リオネットロゼシリーズを核として製品のラインアップを広げていき、2017年にはリオネットシリーズが発売された。アナログからデジタルへの転換、そしてその後の進化は「補聴器を聞きやすくできる手段があれば何でも取り入れたい」という補聴器の開発者たちの思いにより実現してきたのだ。
取材・文/岡本 典明
- 本記事は「RION Technical Journal Vol.5」から抜粋しています。
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